日本人の最新お口事情
H23年歯科疾患実態調査 より
最新の大規模疫学調査 厚生労働省「歯科疾患実態調査」(※1)からみる
~日本人の最新お口事情~
歯の長寿化が進む一方、歯周病などの口腔トラブルは増加傾向に。
日本人の歯周病はなぜ減らない?
◆歯みがきだけでなく、口内細菌を意識したケアの重要性◆
この大規模な厚生労働省の調査では、80歳以上で自分の歯を20本以上持つ日本人が増加し、残存歯数も増えたことで、日本人の歯の長寿化が進んでいる状況にあることがわかりました。
しかし、特に高齢者層においては歯周病の割合も増加しており、残存歯数が増加したことによる口腔トラブルも増加傾向にあることが明らかになりました。
「平成23年 歯科疾患実態調査」の主な結果概要は以下の通りです。
1. |
8020運動運動(*2)の達成率が初の30%超え、80歳での、1人あたりの平均残存歯数も13.9本と前回調査より増加しました。 |
2. |
一方、中~高齢者の間で歯周病などの口腔トラブルを抱えている割合が上昇しました。 |
3. |
ブラッシングによる日常ケアが定着し、毎日の歯みがき回数は依然増加傾向であります。 |
これらの概要から臨床現場を考察してみると、
■歯みがき習慣の改善・近代的な歯科医療の増加により、今後も日本人の残存歯数は増加し、それと同時に歯周病のリスクも高まっていく。
➔歯周病などは、口内細菌が原因となっており、それをコントロールすることが重要であると思われます。
■特に高齢者は、唾液の分泌量減少や口内細菌に対する免疫力低下、ブラッシングが以前より上手にできなくなるなど、様々な歯周罹患のリスクにさらされている。
➔高齢化の進む日本では、今後はしばらくは歯周病は増加傾向を示すと考えられます。
以下にこの調査結果の具体的データを見てみましょう。
①8020運動の達成率が初の30%超え。今後も日本人の残存歯数は増えていくことが予想される。
今回の調査では、80歳で自分の歯を20本以上持つ人の割合が、日本においては初めて30%(推計値38.3%)を超えました。40歳以上の全ての年齢層で前回調査(平成17年)から増えており、特に75~79歳では20ポイント以上と優位な上昇が見られました。また、80歳の1人あたりの平均残存歯数も13.9本と増加しました。
前回の調査から比べると大変改善された数値となりましたが、安定した噛み合わせが可能な「上歯10本、下歯10本」を基準とすると、今回の80歳での残存歯数13.9本が、20本により近づいていくことが望ましいです。しかし、歯みがき習慣の改善など口腔ケア意識の高まりや近代的な歯科医療により、今後も日本人の歯の残存数は増えていくと考えられます。
そう遠くない未来に8020の目標値は達成されるでしょう。
ただし、歯の残存数が増えるのに伴い、ますます歯周病が増え、毎日のケアが重要となります。
②若年層と高齢者層で歯周病(歯周ポケット4mm以上)の割合が上昇。依然減らない日本人の歯周病。
中等度の歯周病と言われる歯周ポケット4mm以上の人たちは、高齢者層(65~69歳、75歳以上)及び若年層(20~24歳)の間で前回調査より増加しました。
特に80~84歳の人たちは、前回調査より9.3ポイントと大幅な上昇が見られました。
日本人の残っている歯が増えているということは、当然のことながら、歯周病のリスクも高まります。
特に高齢者は、唾液の分泌量減少や口内細菌に対する免疫力の低下、さらに、ブラッシングが以前より上手に行えなくなるなど、様々な歯周罹患のリスクにさらされています。
高齢化の進む日本では、今後しばらくは歯周病は増加傾向を示すと考えられます。
また、若年層(20~24歳)で歯周病が増えたのは、自立して親の関与から離れたことで、歯みがきなどのセルフケアがずさんになってしまっていることが要因として想定されます。
③歯みがき回数は依然増加傾向に。歯みがきだけのセルフケアは不十分。
毎日2回以上歯みがきを行う人が7割以上になりました(1日2回48.3%、3回以上25.2%)。さらに、3回以上磨く人は前回の調査時より4.4ポイント増加しました。
日本人の口腔ケア意識は格段に向上しました。歯みがきを1日に2回~3回以上行う方が増えているというのも良い傾向だと思います。
しかし、1日3回以上歯みがきをする人はまだ25%程度ですから、まだまだ多いとは言えません。
歯ブラシの届かない歯間部を掃除するデンタルフロスや、口内細菌を殺菌するマウスウォッシュなどを組み合わせることが重要です。そして、歯科の定期検診に加えて、予防意識を持って日常のオーラルケアを行うことが何よりも大切だと考えます。
【日本人がこれからオーラルケアで留意すべきポイント】
■歯みがきの回数が増えることも重要ですが、それに加えて、口内を殺菌することが重要です。
■セルフケアには、歯みがきだけでは落としきれない口内細菌をコントロールするマウスウォッシュや、歯間部の汚れを落とすデンタルフロスなどの併用が大切です。
■毎日のセルフケアだけでなく、歯科での定期検診を受けましょう。
④オーラルケアの日米比較
日常のオーラルケアの実施状況を日米で比較すると、ブラッシング回数はほとんど同じなのに対し、フロッシング(歯間部清掃)とマウスウォッシングは、実施率に大きな差があり、日米間で高齢者の残存歯数に明らかな違いが生じています。これは、日常のセルフケアの違いが1つの原因として考えられます。
⑤ブラッシングで除去できる歯面のバイオフィルムは約3割です
歯並びが悪い人はもちろんのこと、そうでない人の場合でも、ブラッシングをしても口腔内には6割以上のバイオフィルムが残存しています。ブラッシングでケアできる歯の表面積は、口腔全体の一部に過ぎません。歯面以外の口腔部分(粘膜、舌、咽頭部など)にバイオフィルムがのこってしまうことになります。
ブラッシングによる歯面の物理的バイオフィルムコントロールに加えて殺菌力のあるマウスウォッシュを使い、口腔全体を殺菌することが必要です。
さらに定期的に歯科医院にてPMTC(機械的歯面清掃)を受けることが重要です。
(バイオフィルムとは、様々なお口の原因となる、ネバネバした膜で覆われた細菌の塊)